
いつだったか覚えていないけれど、横尾忠則さん宅に、取材に行ったとき、マントルピースの上の絵が気になって見ていたら、「ジュリアン・シュナーベルですよ、この絵は僕のお気に入りなんです」と言って、横尾さんが僕の方を見た。
「ジュリアン・シュナーベルはサーファーなんですよ」って言いかけたけれど、言わなかった。
多分、その昔、まだ今みたいにサーファーが認知されていなかった時代に、東京で仕事をしていたときの事がふと頭によぎったからかもしれない。
カメラマンのブルース・オズボーンのアシスタントをしていたとき、有名なヘアメイクアーティストやスタイリストたちに、普段の仕事をたずねられて、「はい、サーフィンのカメラマンをしています」と言ったら、「何それ?」って反応が当たり前だったから、このときも言っても無駄だと思ったんだろう。
横尾さんのイメージはあまり喋らない人という感じで、撮影のときもなんとなくぎこちない雰囲気がしていた。なんとかこの状態から脱出しなければと思い「後ろのカーテン良いですね」って言ったら、「これインドのなんだよね」ってまんざらでも無い答えが返ってきたので、思い切って「そのカーテンの隙間から顔を出してくれませんか」って言うと、ニコニコしながら顔を出してくれて意外にひょうきんな人だなって思った。
僕の好きなアーティスト、ジュリアン・シュナーベルは、アンディ・ウォーホールやバスキアと同時代を生きてきたビッグレジェンドで、しかもリアルサーファーなのだ。彼が作った映画『バスキア』の中に、とつぜんパイプラインの波が出てくるシーンがあった。驚いたけれど、なんともいえない嬉しさを感じた。ルー・リードのライブステージのバックのアートも彼が手がけたものだったりして、マジでやばい。
サーフィンのレジェンド、ハービー・フレッチャーも、海はもちろん、アートの波にも素晴らしいトラックを描き出している人物なんだ。ジュリアン・シュナーベルと「ブラインド・ガール・サーフ・クラブ」という秘密のクラブをつくって遊んでいる。ビッグネームの彼らだけれど、そんな姿は永遠の少年のようだ。
自分でペイントしたボードを抱えているハービー
ハービーのアトリエにて、彼の作品と共に撮影
数年前に、監督した映画『ゴッホ』のプロモーションで来日したジュリアン・シュナーベルを取材するチャンスがあったので、ハービーが載っている僕の写真集を持って行ったんだ。
撮影の前にその写真を見せたら凄く喜んでくれて、用意していたスケッグを手に持った写真を撮らせてくれた。まさに「Only surfer knows the filling」な感じがして最高な時間だったな。
”BLIND GIRL SURF CLUB”
https://www.namidensetsu.com/news/namidensetsu/42076